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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2004 5月 No.252

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■トピックス:「横断型基幹科学技術研究団体連合」の活動動向
■私の提言:フリーのSQCツールを提供する
・PDF版はこちらをクリックしてください →news252.pdf

■ トピックス
  「横断型基幹科学技術研究団体連合」の活動動向

筑波大学大学院経営システム科学専攻・専攻長 椿 広計
横断型基幹科学技術研究団体連合(Transdisciplinary Federation of Science and Technology 略称:横幹連合、会長:吉川弘之・産業技術総合研究所理事長)は、科学技術の基礎となる基幹的方法論の発展を目的として、2003年4月に発足した研究団体を会員とする連合です。文理にまたがる41の中小規模の学会が参画しており、各学会の個人会員数を合計すると6万人程度の規模になります。

JSQCは、横幹連合の中では計測自動制御学会、精密工学会などに次ぐ大きな学会ですが、経営基幹技術関連学会では、日本経営工学会、オペレーションズ・リサーチ学会、経営情報学会、日本経営システム学会、日本品質工学会、日本信頼性学会、オフイス・オートメーション学会、プロジェクトマネジメント学会なども会員です。

横幹連合の理念は、2004年度まで活動を続けていた文部科学省振興調整費科学技術政策提言プログラム「横断型科学技術の役割とその推進」(代表者:木村英紀教授・横幹連合副会長・企画委員会委員長、東京大学大学院新領域創成科学研究科、現在・理研)が計測制御情報、人間・ロボット、システムズ・マネジメント、モデル・コンピューティング、生産・設計、社会技術・環境といった分野毎のテーマや、基幹科学技術の教育などの課題について分科会を構成し、企業ヒアリングなどを通じて検討してきたものを基盤としています。この前駆的活動にJSQCからは、飯塚悦功会長(東京大学大学院工学系研究科)が生産・設計分科会に、長田洋教授(山梨大学大学院工学系研究科)が参画されました。筆者は、上記政策提言プログラムのモデル・コンピューティング分科会の幹事を経て、応用統計学会を代表する代議員として連合に参画し、同連合の企画委員となりました。

さて、横幹連合の活動の中でJSQCとの関わりで注目すべきものは、「シミュレーションとSQC」調査研究委員会(委員長:高橋朗(株)デンソー会長・日本品質管理学会顧問)です。この活動は、昨春のJSQC理事会で高橋会長がディジタルエンジニアリング技術を前提とした品質管理技術の見直しをJSQCが積極的に行うべきとの主旨の発言をされたことに端を発します。JSQCでは、天坂格郎教授(当時、研究開発委員会委員長、青山学院大学理工学部)が研究会活動を企画し、数値シミュレーションに基づくQCの組織的推進を図ったのですが、CAEや数値計算の専門家会員がいないため研究組織構成の困難に直面しました。筆者がこの状況を横幹連合企画委員会キックオフミーティングの自由討論で紹介したところ、昨年9月に天坂JSQC研究開発委員長と木村横幹連合企画委員長との会談が実現し、横幹連合に「シミュレーションとSQC」調査研究委員会を設置し、各研究団体連合からエキスパートを募り研究活動を支援する方針が決まり、昨年12月の横幹連合臨時総会で「シミュレーションとSQC」調査研究委員会がJSQCを幹事学会として設置することが承認されたのです。本年1月の同委員会立ち上げの準備会には、エキスパート派遣学会として、日本感性工学会、日本数理科学協会、日本バーチャルリアリティ学会、オブザーバー派遣学会として、応用統計学会、日本応用数理学会、日本経営工学会、日本コンピュータ化学会、日本信頼性学会、日本知能情報ファジイ学会、日本デザイン学会が参画しました。本年5月15日には、名古屋工業大学で第1回の委員会を開催しました。当日はJSQCの計画研究会と横幹連合との共同で、今後研究すべき課題マップ作成を目的としたワークショップも開催します。まだまだCAEの専門家にQCという問題意識を共有していただくのは難しい状況ですが、第1回活動を契機に問題点を広く横幹連合に投げかけてゆきたいと考えています。

この他にも、横幹連合では「設計プロセス工学」という分野の構築を目指す活動や、「知的財産権問題」に対する政策提言なども行っています。ご関心のある方は、ぜひウェブページ(http://www.trafst.jp/)をご参照いただければ幸いです。


■ 私の提言
  フリーのSQCツールを提供する

関西大学 教授 荒木 孝治
タイムマシンの作者として知られる小説家H.G.ウェルズは、「有能な人間の条件として、読み書きの能力に加えて統計的思考が要求される日が来るだろう」という内容の発言を1904年に行いました。100年を経過した今、この予言は実現しているでしょうか。1950年のデミング博士の招聘セミナーを統計的品質管理(SQC)の導入年と位置づけますと、少なくとも日本の製造業においては、この予言は50年も前から実現していると判断できます。

一般に、読み書きの能力をリテラシーと言いますが、その内容は時代とともに変化します。品質管理の世界においては、データを取り扱うためのリテラシーである統計的思考の重要性が半世紀も前から認知されていたわけです。そして現在では、コンピュータに関する知識もリテラシーの不可欠な要素となりました。

では、統計的思考とコンピュータに関して、これらが両輪となってTQMの重要な要素であるSQCを有効に進める体制が整っていると言えるでしょうか。これに関しては疑問の余地があります。その理由の一つとして、“自由に”利用できるSQCソフトウェアの欠如を挙げることができます。商用のソフトウェアは多くありますが、企業や教育機関において統計ソフトウェアの大量導入は困難です。そこでフリーなソフトウェアの存在が必要となります。表計算ソフトで代用することも考えられますが、これはかなりストレスを伴う作業となります。

ソフトウェア開発の近年の特徴として、オープンソースプロジェクトがあります。これは、開発したソフトウェアを自由に無料で利用してもらうとともに、プログラムの中身(ソースコード)を開示することにより、信頼性の高いソフトウェアの開発を目指すという活動です。この形で開発されている代表的なものがリナックスです(最近では、様々な国の政府機関がウィンドウズからの代替OSとしてリナックスの導入を検討しています)。

品質管理の世界をあらためて眺めてみますと、オープンソースの動きから少し遅れていると感じます。学会として、統計的品質管理のための信頼のおけるフリーソフトウェアを、TQM活動を行っている組織にSQCツールとして提供することは、産業や社会に対する重要な貢献の一つと考えます。


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