■ トピックス ANQの発足に寄せて
ANQ会長 狩 野 紀 昭
飯塚悦功国際委員長のメッセージ(「品質」Vol.32,No.4参照)ならびに拙著の退任挨拶(「品質」Vol.33,No.1参照)で紹介されているように、アジア品質管理シンポジウム(AQS)は2002年11月に東京で、前年までの韓国、台湾、日本の三学会に中国が加わった4学会の共催となり、更に、インド、イラン、タイ、ベトナム、香港が加わり、合計10ヶ国からの品質管理組織が参加して開催された。また、これを契機としてアジアの品質管理組織の連合として、Asian Network for Quality(ANQ)が、JSQCを初代議長組織に、韓国、台湾、中国、インドを理事組織として発足した。これまでに決まった概略は次の通りである。
- アジアにおける品質ならびに品質管理の分野における科学技術の発展ならびにフィロソフィー、理論、方法論、応用の研究開発のための推進活動を通して産業界の発展に寄与し人間生活の質を向上することを目的とする。
- ANQでいうアジアとは、アジア大会の領域と同じとする。
- 加盟組織の条件は、非営利の法人格をもった品質管理組織であること。
- 運営指針としてANQ Wayを制定し実践していく。
- AQSを重要な活動として継続し開催するとともに、ホームページhttp://www.ANforQ.net の充実により情報交換に役立てる。
- 財政的には、原則として理事組織は一般加盟組織の2倍以上の年会費を負担する。また、加盟組織間の経済格差の存在を考慮して、ANQ Moneyの創設を検討していく。例えば、一人の若手専門家の受け入れを実施した場合に、物価の高いところも低いところも同じ額の貢献をしたというような換算方式の導入を考える。
今回のANQ発足に際して、もっともデリケートな問題は、一ヶ国から一組織の加盟に限定するということを明記するかどうかであった。中国と台湾の両方の加盟によって成り立っているANQにとっては、この点は、どうしても曖昧にしておかざるを得ない問題であった。結局、新たな組織の加盟の条件を、既存加盟組織全ての同意が必要とすることにより、実質的に限定することで、この議論への深入りを回避した。この問題は、これからのANQの運営において常に問題になることであろう。
ANQ発足のJSQCにとっての当面の最大のメリットは、日本がもっとも世界に遅れを取っている国際的コミュニケーション力の向上に役立てることであろう。ANQ加盟組織が開催する大会での発表を行う、また、JSQCの研究発表会にもANQの加盟組織メンバーが発表するということへの道が開かれるであろう。このような機会を若い会員の人たちが大いに利用して、国際的な場でのコミュニケーション力を磨いて欲しい。
今後のAQSの開催地は次の通りである。
2003:中国、2004:インド
2005:台北、2006:イラン
また、本年のAQSは、次のように開催される。多くの方の参加を期待したい。
開催日:2003年9月23-24日
開催地:Beijing Jiuhua Country Villa, Beijing, China
発表申込締切:2003年6月15日
参加費:USD150
■ 私の提言 確かなものづくりへの提言〜ばらつき再考〜
大阪電気通信大学 総合情報学部・情報工学科 教授 猪原 正守
近年、品質に関連する話題がマスコミによって連日のごとく報じられている。その主要因が経営トップによる品質への関心の軽薄化にあることは明らかであるが、真因は組織の全階層における“ばらつきへの洞察力不足”と“QC活動における人間性尊重の軽視”にあると考える。特に、前者は、経営トップから現場第一線のそれぞれにおける“正常と異常を見極める仕組み”の無機能化をもたらす危険性があるので深刻である。
企業間競争の国際化によって、高い品質と信頼性を有する低コストの製品やサービスを継続的に開発することが要請される。そのとき、設計・開発〜生産技術の各部門におけるばらつきへの認識不足が、DRにおける問題の早期発見と解決、現生産工程の工程能力への対応あるいはQC工程表における不具合未然・流出防止の機能を弱くしている。
QCにおいては、特性のばらつき要因を特性要因図などによって分析することを基本としてきたが、例えば、錆びによる設備寿命のばらつき要因を“使用している水”とする例に接すると悲しくなってしまう。特性要因図の正しく活用には、ばらつきに対する深い洞察こそが必要ではなかろうか。
一方、小集団活動を初めとして“企業業績への貢献”が叫ばれる中、改善テーマの上位方針や企業業績との関連あるいは問題解決のスピード化が重視され、問題を解決すること(特殊解を見つけること)が重視される一方で、問題を発生させているばらつき要因を明らかにする感性の向上が注視されない。その結果、特性要因図による“なぜ、なぜ”は軽視され、3現(現場、現物、現実)の考え方は軽視される。
人は“なぜ?”を自問する中から問題を発見し、ばらつきに対する洞察を経てその答え(一般解)を求めることで達成感を味わい、感動を得て成長するものである。ばらつきに着目し、ばらつきに答えを求める人の育成こそが人間性を尊重した品質に基づく確かなものづくり原点ではなかろうか。品質管理における“ばらつき”の重要性を再考したいものである。
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