2000年10月29日から11月4日にかけて本学会主催“台湾ハイテク企業に学ぶ”研修チームが派遣され,半導体・ノート型パソコンメーカー等,台湾が世界に誇るハイテク企業6社を訪問した.経営者の講演を聴き,成功の秘訣について学ぶとともに,チームメンバー相互の意見交換を行い,これからの経営戦略ならびに品質戦略について研修することが目的であった.
医療安全パネルディスカッション「医療の安全と組織管理・質向上の努力」が,3月2日金,信濃町の東京都医業健保会館において開催された.四病院団体協議会(四病協)の医療安全対策委員会が主催した.医療および品質管理関係者等,参加者は予定の300名を超過し,予備の第2会場にもビデオ映写された.
医療に品質管理の考え方を導入する契機とする事を目的としている.四病協委員であり,日本品質管理学会計画研究「医療経営の総合的質研究会」主査の飯田修平が企画し,研究会委員の久米均氏,尾形逸郎氏がパネリストとして参加した.
四病協は,良質の医療を提供して欲しいという国民の期待に応えるために,主たる四つの病院団体が大同団結することを目的に,平成12年に設立された.
医療事故報道が多く,医療不信が高まっている.医療安全パネルディスカッションが,四病協として実施する最初の対外的活動である事,また,品質管理関係者の参加を得た事は,極めて象徴的かつ意議あることである.医療事故防止対策ではなく,医療の安全という観点から検討することが必要である.
プログラムは,病院,製薬,医療器材,品質管理の各界代表の各30分間報告,次いで1時間の討議が行われた.
- 1 病院界の取り組み・自院の取り組み
- 河北総合病院診療部長 尾形 逸郎
- 2 製薬業界の取り組み・自社の取り組み
- 武田薬品工業 医薬営業本部医薬学術部長 吉原 寛
- 3 医療器材業界における自社の取り組み
- テルモ 医療リスクマネジメントプロジェクトサブリーダー 鈴木 雅隆
- 4 品質マネジメントの仕組みと道具について
- 中央大学理工学部経営システム工学科教授 久米 均
尾形氏は,病院の理念と目的志向の組織構築が必要であり,組織としての質向上の取り組みとして,PIC運動(Patient Identification
Confirmation:患者の同一性確認)を報告した.
吉原氏は,厚生省医薬安全局長通知に基づく,日薬連の取り組みとして,「薬品・医療用具等関連事故防止対策検討会」への参画と,日薬連の安全性委員会の「医療事故防止対策プロジェクト」および社内プロジェクトの報告をした.
鈴木氏は,上記検討会への参画と,社内プロジェクトチームの活動として,インシデント報告の分析に基づいた誤接続防止対策と輸液ラインはずれ対策,輸液ポンプ開発等を報告した.
久米氏は,方針管理は経営方針を徹底させる仕組みである,日常管理の仕組みとして変更管理が必要である,初期流動管理は品質不良の影響を最小に抑える仕組みであるとして,薬害問題に触れた.デミング賞は新しい品質管理の仕組みを開発する仕組みでもあったと報告した.
各パネリストの報告の後,飯田が座長を務め,本パネルディスカッションの目的を説明し,医療の安全に関して,
- 従来の議論では進展が期待できない
- 立て前ではなく本音で討議したい
- 各界の現状の問題点を抽出し
- 各界の具体的な対応を把握し
- 医療界全体として,何をなすべきか
- 医療界として,何ができるか
- 他産業界・学会から何を学ぶか
- 他産業界・学会と協力して何ができるか
を討議し,具体的な行動の契機としたいとした.
パネリストおよび参加者との間で,製薬・医療器材会社の更なる積極的対応を求める意見,医師の意識の問題,日本からの薬剤名,包装等の世界統一規格を提案要望等の活発な質疑があった.
多くの病院では,事故防止・安全対策を実施し,インシデント報告を収集しているが,成果は充分ではない.その原因は,対策委員会設置が形式的であったり,それぞれ個別の問題として対応しているからである.組織を挙げて取り組む必要がある.
そのためには,品質管理の考え方や手法が有効であり,総合的質経営(Total Quality management:TQM)を導入することが必要である.
具体的な行動は今後の課題として残された.しかし,これを契機に,品質管理の考え方が医療界に広く導入され,相互の交流が進むことを期待したい.
近頃ITやインターネットの話題を毎日のように耳にするが,それに呼応するようにインターネットという社会の共通インフラが整備され,会社や家庭にパソコンが急速な勢いで普及している.
これらを組み合わせる事によってBtoC(企業と消費者)といった巨大なコミュニケーションネットワークを容易に構築する事が可能になった.
そうなるとこれをうまく利用してビジネスを興そうという考えが自然に発生して来る. これがeコマースとかeビジネスと言われるITビジネスの代表である.
当初はベンチャー企業がその機動性を発揮してITネットビジネスを興し,今ではいわゆる伝統的な大企業もマーケットプレイスとかで参入を図っている.
しかしこれらの企業がすべて成功事例となるわけではなく,多くの企業が赤字で苦しんでいるのが現実である. これは参入が容易であるが故に競争も激しくなると言うだけが理由ではないと思う.
それはビジネスモデルを構築するに当たって事業の原点に戻った分析,発想が十分でないからである. 新しいビジネスモデルというとどうしても技術やシステムが先行し,CS,品質と言う観点からのアプローチが欠如しがちである.
つまり手段と目的を取り違えてしまうからである.
ここに品質を機軸に顧客志向を目指すTQMの出番,役割が多いにあるはずである. しかしながらこの両者の世の中に於ける接点というのはまだそう多くない.
例えばインターネットで「ITビジネス」&「TQM」という項目を検索してもほとんどヒットしない. 新商品の開発や経営戦略立案のためのTQM技法の研究は多方面で行われ,多くの成果も発表されているのだから,新しいITビジネスモデル創成のためのTQMの新技法といった分野における研究開発ももっと積極的に進められて良いのではないのだろうか.
そしてこの新しい時代のビジネスチャンスをものにし,勝ち残るための解答をTQMが発信することになればTQMが新規事業創成の有効なツールになり得る事を証明し,TQMの奥の深さ,存在感をより鮮明にする一助となるのではないだろうか.