■ トピックス 厳しき示唆 −第27次海外品質管理調査から−
前田建設工業(株) 代表取締役会長 (社)日本品質管理学会 会長 前田 又兵衞
■米国の活力
久しぶりのデトロイトである.まさに米国の活力と明るさの象徴がそこにあった.
米国の好景気の牽引車となっているIT、株式市場、自動車産業.その一つのメッカである空港に2年振りに降り立ち、驚愕させられた.際だって空港が新しくなり、雑踏の輪が訪問の都度に広がり、悪名高い悪路が整備されてスムーズなドライブが楽しめ、行き交う車が綺麗になり、街並みが見違えるほど清潔さを増し、ホームレスが激減し、治安が回復した.
第27次品質管理調査団の団長として米国を訪れ、ASQ(米国品質協会)主催の年次大会へ参加した第一印象である.
年1回のワシントン訪問を約5回、2年に1度のデトロイト近郊訪問を約7回、ここ15年間の定期的な渡米の都度に変化の迫力を肌で感じさせられる.
10年振りのインディアナポリスも、また同様であった.5月末に開催されるインディ500マイルレース直前のためか、明るいざわめきがある.そんな時に開催されたASQの年次大会は、地方都市ながら約3千名を越える参加者で熱気に溢れていた.
ASQ年次大会で実施された様々な表彰の授与式も実にスマートであり、内容も濃く、日本の既存の表彰式に見られる型通りの堅苦しさは微塵も見られず、威厳すら感じさせられた.1970年代、景気、品質等、全ての面で米国が体験した辛酸を日本が舐めさせられている.
悔しいが何から何まで、今、米国に学ばねばならぬと感じたのは、私一人ではあるまい.
幸いにも靴日本科学技術連盟の尽力によりデンソーの古屋嘉彦副団長と共に、ASQ現副会長のT.J.モスゲラー氏、次期会長のG.H.ワトソン氏と親しく面談できた.謙虚に日本に学んだ当時の米国と同じ姿勢で、両氏のご意見に耳を傾けた.
米国の品質の成功は、米国流に工夫を凝らし、優れた日本の手法を一般大衆に分かり易くしたことであり、今後はこの維持に力を注ぐとの由である.やはり継続は、教育なのであろう.
「以前は品質に関して米国のみならず世界へ発信が多かった日本からの発表が少ない現在は学ぶすべもない.是非とも日本は、過去の成功に甘んぜず、優秀な技術を保有する日本ならではの新しい日本型経営モデルを構築し、世界に発信すべきである」と、両氏から強烈なご指摘を受けた.
■日本型経営モデルの再構築
最近、日本においても時あるごとに、同様の指摘を受ける.
大先輩の草場先生や近藤先生、さらには吉澤先生や狩野先生、コニカの米山会長やデンソーの高橋会長などの諸先輩から異口同音に提起されている事柄でもあり、特に経営モデルについては日本が最も不得意とする分野である.
日本のTQC、現在のTQMは、製品の品質改善の道具として出発した.
品質を改善するために製造工程にメスを入れ、良品質を得る品質確保の原点として職場を明るく活性化し意志疎通を図るQCサークル、設計と営業の要求とのすり合わせの中から顧客重視へ、良品質を作り出す仕組みの重要性に着目した方針管理などを道具とし、TQCを日本型のビジネスモデルとして構築したはずである.
粗悪品の代名詞であったMade in Japanを超優良品へ変革させたのは、経営者の熱意であり、日本全体が官民学一体となったから成し得たのである.
故石川馨先生を始め、品質関係の指導者達と経営者達が共に手を携え、現場の第一戦に立ち、汗にまみれながら地についた品質管理を実践した結果、汗の染みついたデミング賞を創り、血の通ったTQC、QCサークル、QC7つ道具、方針管理等々を産み出したからこそ、米国も世界も受け入れ、学びもした.
長期間の右肩上がり経済の結果、短時間に経済強国となり、超多忙となった日本の経営者達は、現場を忘れ、先輩達が築き上げた日本独特の汗の結晶である固有のビジネスモデルを、品質管理専門家や技術者へまかせきりにしてしまった.超優良品質に慢心し過ぎたのか、手法に溺れて特化し過ぎたのか、バブルが原因なのか、全てが崩壊してしまったことを、私を含めて品質に係わる関係者全員が猛省すべきである.
日本の全産業が共通の目標にする新たな経営モデルの再構築は、既存の品質界・学会だけで合意形成を成し得ぬかもしれない.しかし、忌々しき昨今の品質トラブル脱却を目途に故小渕総理によって品質再生が計られたものづくり懇談会が、帰国後直ちに開催予定である.森総理に提出される提言に、この有意義な厳しき示唆を盛り込まねば外国出張が無駄となる.
今後の教育問題に関してASQとJSQCとの長く深い相互の交流を約し、盛会裏に開催されているASQの年次大会を横目でみながらインディアナポリスを後にした.
■ 私の提言 TQMジャングルの回避
龍谷大学 経営学部 教授 由 井 浩
学術情報センターの検索をすると、TQMの単行本は洋書65冊、和書21冊あった.共に2つの刊行ピークがあり、前者は1993〜94年(40%)と1996年(28%)、後者は1996年(24%)と1998年(33%)である.米英ではこれらの後にTQMの内容や定義に共通理解が得られるようになった(Blackwell社百科辞典:1997年版).上記の出版状況に照応してやや遅れたが、我が国でも『品質』1995年第2号と翌年第3号や、TQM委員会(『TQM
21−世紀の総合「質」経営』1998年)などでの議論を経て同様な認識傾向にあるものと思われる.
一方、その研究・実践主体は吉田耕作教授によれば、日本は圧倒的に工学系で、米国では文科系の人も多数参加している(『品質管理』1998年3月号).たしかに著名な経営誌Harvard
Business ReviewやCalifornia Management ReviewにDr.ジュランやDr.狩野の論文が掲載され、またアメリカ経営学会誌Academy
of Management Reviewは1994年にTQMを特集した.そこで、提案1:大滝教授提案2(ニューズNo.218)を受けて、日本経営学会の大会に2学会共同によるTQMのセッションまたはワークショップを開いてみてはどうだろうか(同学会はセッション数増大の検討中である).
さて、ある学問分野において研究目的に合意があるとしても、アプローチは多様でありうる.経営学では、それらの間でジャングル戦の様相を呈したので、H.クーンツは6つ(後に11)の主要学派に分類した.今はさておき、将来のTQMジャングル回避のためアプローチ区分を提案2としたい:(1)数理的、工学的 (2)マネジリアル、社会科学的
(3)経験(実証)・実験的、ケース・スタディー (4)文献的 (5)歴史的 (6)その他.こうしておけば、例えば「TQM導入・実施ステップ」や「各国品質賞・自己評価」を検討する際の参考になるだろう.当然、アプローチの複合もありうる.蛇足ながら(5)に関して、Total
Quality Managementの語のオリジンには諸説あるが、寡聞の限りA. V. フィーゲンバウム著書の第3版(1983年刊)1.7節である.
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