■ トピックス 日本品質革新機構の設立にむけて
筑波大学 吉澤 正
■箱根シンポジウムで賛同される
昨年12月、第69回品質管理シンポジウム(日科技連主催)において「日本品質革新機構」設立に向けた報告書が発表され、同時に「箱根宣言」が採択された.
昨今、臨界事故、コンクリート壁の剥落など多数の基本的な事故が頻発し、我が国の社会産業基盤としての品質管理・安全管理体制が揺らいでいる.
その事態に鑑み、「箱根宣言」は、同シンポジウムに集ったTQM関係者が、品質革新を通じて我が国の社会産業基盤の一つとしてのより高い質のマネジメント活動ならびに製品・サービスの実現に向けて努力することを誓ったものである.
その宣言の中で、TQMを基盤にしたマネジメント技術の研究開発を推進する機構として(仮称)日本品質革新機構(JOQI)を設立し、国を挙げての活動を推進することが提案され、早期の活動開始を目指してその準備委員会(座長:米山高範コニカ会長)が構想を固めている.
■新しい機構の発想
日本のTQCをリードしてきた箱根シンポジウムでは、戦後日本産業の発展を支えたTQCの変革・再構築をかねてより議論してきた.
95年6月にはTQMへの名称変更を打ち出し、日科技連もTQM委員会を設置して『TQM宣言』を発表し、学会でも98年1月に特集号を組んでその考え方と具体的な事例を紹介した経緯は周知のところであろう.
コンソーシアムの最初の発想はそのTQM委員会で出され、半導体や化学工学分野の国家的プロジェクトの受け皿となる戦略的な機構にならって、産業界や政府の資金を利用したTQMの研究開発組織があってもよいという考えであった.
それが98年12月の箱根シンポジウムの討論で紹介され、関係者の賛同を得た.
それを受けてシンポジウム組織委員を中心にした会合がもたれ、99年6月に新機構の設立に向けた報告書の作成を任務とするWGが結成され、その報告書の概要が12月のシンポジウムに発表され、同時に箱根宣言が採択された.
■競争力の源泉としてのTQMの分析
上記WGの報告書は、『日本品質革新機構の創設を目指して』と題され、日本産業の競争力低下の一方米国・シンガポールなどでは競争力が向上した要因を分析し、日本産業再生のための課題、産業競争力向上におけるTQMの役割、日本的TQMの世界における位置付け、日本的TQMがかかえる課題などを検討した.
■新しい機構は何を目指すか
現在、準備委員会で具体的な研究テーマを検討中であるが、ISO9000に繋がる品質経営の自己評価システムの開発、TQMパフォーマンス評価指標や品質会計の研究中小企業へのTQM導入ガイドラインの作成、新規手法の研究開発などがあげられており、企業のニーズに基づいたテーマの選定と迅速な成果報告が目指されている.
■なぜ、新しい機構が必要か
これまでも当学会をはじめ、日本規格協会、日科技連などにより、TQMの推進事業ばかりでなく、研究開発も種々に行われてきた.
しかしながら、従来の研究は、企業の切実なニーズに基づいた課題に関するテーマは少なく、どちらかというとアカデミックな発想に基づいて論文として仕上げるようなテーマが多かった.
その成果の活用も不充分で報告書の出しっぱなしといういがあった. そのような状況の原因は現在の体制の本来的内在的な欠陥でもあり、それを克服する対策として、企業ニーズの吸い上げと成果の活用を重点的に行う新機構が必要と考えられた.
学会はより基礎的で自主的な研究が主体であり、新機構の任務は実用化研究に近く、その成果は日科技連や日本規格協会のような団体で利用されるという役割分担となろう.
■学会の目指す全国的品質協議会組織
当学会では、昨年度より『21世紀への提言』の一つとして、品質に関わる諸団体が結集して全国的な協議会を組織し、全日本的な立場で発言できる場を作りたいといってきた.
その協議会構想は研究開発を直接に行うものではなく、TQMの推進を目的とするゆるい結合の団体であり、日本品質革新機構とは並行して構想されるべき別途のものである.
■新しい機構の組織と運営
ところで新しい機構が最初から戦略的機構や企業組合のような大規模な組織を目指すのは明らかに無理であり、研究開発テーマを明確にした上で、賛同される企業を中心にできる限りの資金を集めて、小さい規模から出発して実績を上げていく必要がある.
その組織・運営方法などについて現在具体的な準備が進められているが、箱根シンポジウムで賛同された有力企業をはじめとして、多くの企業に働きかけて機構への支援と研究開発活動への参加を要請すべく、6月の次回箱根シンポジウムを目途に趣意書などの作成が行われている.
学会会員各位のご支援・ご協力を賜りたい.
■ 私の提言 TQM推進者の心意気
コニカ(株) KQM推進室 山 崎 正 彦
TQCからTQMへの呼称変更に伴い、1997年にコニカのTQMとして、KQM推進室と組織名を変えた. TQMの構造も企業環境の厳しくなる中で、従来の方針管理から、「戦略的方針管理」と改め、TQM構造(KQMハウスと呼ぶ)の主要な柱と位置づけて、強力に推進していくこととした.
結果は1月初旬には全社方針がだされ、それを基に社内カンパニーの方針が策定され、更に、関係会社にまで方針展開が計られている. 4月からは全部門は一斉に実行に向けてスタートがきれる“しくみ”ができあがり、この点ではTQMが経営の一つのツールとして定着しつつあるように思う.
現在、日本におけるISO9000の審査員登録者数は約5000名、事業所の内部監査員を含めるとその数は5万人を越えるISO9000に関する監査員がいるものと思われる.
広辞苑によると、「監査」とは監督し検査することとある. 更に「監督」は目を配り、指図したり取り締まったりすること、「検査」は基準に照らし適・不適や異常、不正の有無を調べることとある.
即ち、監査はある規則、基準に則り適・不適を判定することであり、ここでは、よりよい方法や正しい方法を提示する必要はなく、正しくないことを指摘するだけでよい.
それ故に、かくも短期間に多くの監査員を誕生させる事が出来た訳である.
しかしながら、現実にはかつて経験したことのない多くの課題が次々に発生し、それらを待ったなしでスピーディーに、しかも確実に対応しなくてはならない.
TQMが「経営の“質”向上」と言った瞬間にTQMの推進スタッフはルールブックにない多くの経営課題に対して適切な対応を迫られる.
従って、これからのTQM推進者は経営コンサルタントの役割を演じ、適切な助言と指導の出来る力が強く要求されてくる.
経営の“質”を上げていく推進スタッフとして「経営における諸施策の失敗は自分に責任」と思えるまでに、諸課題と真正面から取り組み、解決していく力を備えたTQM推進者が多数育って行かなくてはならないと感じている.
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