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JSQCニューズ 2019年6月 No.373

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■トピックス:技術者倫理に関する事例集教材開発
■私の提言:AI・機械学習の技術を業務に活かす
・PDF版はこちらをクリックしてください → news373.pdf

トピックス
技術者倫理に関する事例集教材開発 

筑波大学 掛谷 英紀

 文部科学省「大学間連携共同教育推進事業」CITI Japan プロジェクトで開発されたeラーニング教材は、JSPSやJSTの競争的資金を受けるときにはその履修を課す研究倫理の標準教材に指定されている。この教材の管理は、2016年4月1日に設立された一般財団法人公正研究推進協会(APRIN) に現在引き継がれている。
 APRINには、4つの分科会(医生命科学系分科会、理工学系分科会、人文社会学系分科会、中等教育における研究倫理の教材作成分科会)がある。筆者の属する理工学系分科会では、技術者向けの倫理教材として、技術倫理〜技術者の観点から〜、技術開発におけるリスクマネジメント、情報技術に関する倫理の3つの教材を制作し、既に会員向けに提供を始めている。また、今年度中に技術開発における技術データの取り扱いに関する倫理、技術と社会という2つの新たな教材を完成させる予定である。
 以上の教材に加えて、現在APRINの理工学系分科会が新たに制作に取り組んでいるのが事例集教材の開発である。
 現在、大学で研究者倫理、技術者倫理の単位を必修化する動きが進んでいる。しかしながら、それらの科目を専門的に教えられる人材の数は限られている。実際には、ファカルティの中から誰かが指名され、短い準備期間で科目を担当せざるをえないケースも少なくない。そうした現状を考えると、倫理科目の講義を担当する教員に役立つ教材の整備が急務である。
 もちろん、そうした標準教材はこれまでもなかったわけではない。しかし、それらは米国の教材の翻訳であることが多く、特に事例については身近とはいえないものが多数含まれていた。そこで、技術者倫理科目のディスカッション材料として使える事例を、日本を舞台としたものを中心にまとめて提供しようというのが、新たに事例集教材作成を企画した意図である。
 これまでも、日本の倫理案件を集めた事例集は、日本技術士会発行の技術者倫理事例集など、先行するものはいくつかある。にもかかわらず、新たに事例集作成を企画した理由は、技術者倫理の講義で学生にディスカッションをさせるとき、学生に議論を深めてもらうには、扱う個々の事例についてかなり詳細な情報が必要だからである。筆者自身、授業のディスカッションにおいて、「この事例において、この点の事実関係はどうだったのか?」という質問をしばしば受けてきた。
 これまでの事例集は、事例の数を多く集めることを意図したものが多く、個々の事例について事実関係を詳細に調べたものはあまりない。そこで、新たに作成する事例集では、講義の話題提供用に、テーマを10に絞り、それぞれについて1回分の講義のディスカッションに堪えうる詳細な情報を記述した事例集を作成することを目指している。上述の理工学系分科会の5つの教材と、10の事例とあわせると、大学で標準的な15コマの講義の教科書として運用することも可能である。
 今回作成する事例集では、テーマ選択の特徴として、東日本大震災で功を奏した、東北電力女川原発をはじめとする津波対策の成功事例や、当時建設中だった東京スカイツリーの地震対策など、Good Practiceによる成功事例を多く入れようとしている点が挙げられる。
 これまでの事例集はBad Practiceを中心としたものが多かった。しかし、昨今、倫理教育は予防倫理から志向倫理に移行しなければならないとの潮流がある。本教材でもその考えに沿った事例の選択を行っている。
 歴史的に、啓蒙主義以降、実存主義やポストモダン哲学の登場により、社会が意味や目的を喪失している中で、志向倫理が何を志向するのかを定めるのが難しい時代になっている。その一方で、昨年出版されたJordan Peterson著”12 Rules for Life”が世界で300万部以上を売り上げたことから分かるように、意味の回復を求めようとする人々が多くいるという現実もある。今後、技術者倫理を語る上でも、こうした動向を踏まえた議論が必要になってくるだろう。


私の提言
AI・機械学習の技術を業務に活かす

(株)日本科学技術研修所 片山 清志

 AI・機械学習の技術がこれからのものづくりにとって重要であると私は考えているが、日本企業はこれらの技術と業務を組み合わせて伸ばしていくことが喫緊の課題であり、単なるAIバブルとならないよう、切に願っている。
 ビジョナリカンパニー(2)の著者ジム・コリンズ教授は、技術は適切に利用すれば業績の勢いの促進剤になるが勢いを作り出すわけではない。技術をうまく活用するには、まずその技術が自社にとって有用であるかどうかをまず判断できなければならない、と述べている。
 日本の品質管理はTQMの全員参加理念のもと、多くの現場技術者が自ら(あるいはチームで)SQCを使い業務を改善してきたことに特徴があり、強みがあると考えている。多変量解析の目的は分析が中心であるのに対し機械学習の目的は多くの変数からなるデータから生成される特性を予測するなどの違いがあるが、それぞれが適用する場面を選択し使い分ける必要がある。外観検査や設備異常検知、メンテナンス最適化など多くの有用な事例が報告されているが、これらは「人が見る、聞く」ことで判断してきた作業を機械学習に置き換えることで品質や生産性が向上した事例である。しかしながら、機械学習が導き出した結果に対し「なぜ」が説明できなければ現場で受け入れてもらえないことも多く、技術者は結果の妥当性を判断、検証する能力が求められているのは言うまでもない。
 これからはモノとモノがインターネットで繋がり、開発・生産管理から需要予測まですべてのバリューチェーンにAI・機械学習を適用できる可能性がある。
 そのため、現場の技術者に技術と体験を提供する統計解析教育とより実践的な機械学習カリキュラムの提供、活用事例の共有化、対外経験交流、IoT時代の製品・サービスのソフトウェア品質管理等が求められる。日本の企業が持っているビッグデータの多くは工場や設備などのセンサーデータや購買データなど多くは紐付けされた構造化データであるので、まずは従来の統計解析と機械学習の技術でAI事業を推進すべきではないかと考える。


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