1.はじめに
2015年11月のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、パリ協定(Paris Agreement)が採択されました。当初、発効は遅くなるであろうと予想されていましたが、アメリカと中国が締結したことにより発効要件を満たし、パリ協定が発効しました。そして、昨年11月15−18日にCOP22に合わせて、第1回パリ協定締約国会合(CMA1)が開催されました。わが国がパリ協定を締結したのは、CMA1開催の一週間前でした。
2.パリ協定とは
国連気候変動枠組条約とは、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的とした国際条約です。この条約は、今後の温暖化防止の枠組みを定めたもので、いわば、環境方針のようなものです。具体的な目標などは、この条約に加盟した国が集まって、これから決めようということです。これが締約国会議(COP)です。そして、第3回会議で決定された文書が京都議定書であり、第21回会議で決まった文書がパリ協定です。京都議定書では、中国やインドを含む開発途上国には温室効果ガス削減義務がなく、最大の排出国(現在は2位)のアメリカが離脱したことから、その実効性が問われることになりました。そのため、今回のパリ協定では、様々な工夫がされています。パリ協定と京都議定書の特徴を簡単に比較すれば、表のようになります。京都議定書では、クリーン開発メカニズム(CDM)などの市場原理に基づくインセンティブが重視されていました。しかし、今回のパリ協定では、その仕組みは引き継がれていますが、扱いは小さくなっています。
表 京都議定書とパリ協定の比較
具体的な目標 を定めた文書 |
京都議定書 |
パリ協定 |
決定された会合 |
COP3 |
COP21 |
温室効果ガス の削減義務 |
先進国は6〜8%の削減義務 を負う。 |
すべての国は自ら定めた目標 の達成に努める。 |
特徴 |
市場メカニズム(排出量取引 など)を重視する。 |
PDCAを重視する。5年ごとの レビュー、進捗管理を行う。 |
今回のパリ協定では、開発途上国においても、強制されてはいませんが、すべての国が削減目標を掲げることができます。このため、先進国の援助によるこれらの国での温室効果ガス削減の成果をどのように配分するかという問題を解決する必要があります。また、開発途上国に対する資金援助に関する事項も含まれていますが、具体化に向けた取り組みもこれからの課題です。
3.わが国の対応
COP19での決定により締約国は2020年以降の温室効果ガス削減目標案を提出することになっており、2015年12月現在すべての先進国を含む188の国と地域がこれを提出しています。わが国は「2030年度に2013年対比で26%削減する」と報告しています。
日本経済新聞社がまとめ、1月23日付け朝刊で発表した第20回環境経営度調査の結果でも、各社が積極的に温室効果ガスの削減に努めている様子がよくわかります。昨年5月に閣議決定された地球温暖化対策の基本方針(2030年までに26%削減)に対応した産業部門での6.5%削減目標を大幅に上回る14.4%の削減を達成しています。特に、業種別にみると、自動車・自動車部品、機械などの健闘が目立ちます。ここで、わが国にとって最大の懸念は遅れている電力部門での進捗管理であろうと思われています。
4.パリ協定発効と環境マネジメント
パリ協定では、各国の削減目標は自ら決めることになっており、最終的には地球全体での温度上昇を2℃以内(なるべく1.5°以内)に抑えることとしています。この方針を実現するために、それぞれの国で適切にPDCAを回して、対策に遅れが生じるようであれば、適切な見直しが迫られることになります。その意味でも、温暖化防止対策においても、ISO規格が要求しているようなマネジメントシステムが求められているともいえます。