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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2016年12月 No.353

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■トピックス: 「第1回サービス標準化フォーラム:Best Practice に学ぶサービス品質」を開催して
■私の提言:ソフトウェア品質データの蓄積と精緻な議論への期待
・PDF版はこちらをクリックしてください →news353.pdf

トピックス
「第1回サービス標準化フォーラム:Best Practice に学ぶサービス品質」を開催して

サービスのQ計画研究会 主査/東京大学 水流 聡子

 我が国のサービス業はGDPの7割を超え、就業構造の面でも大きなウエイトを占めている。更に、製造業のサービス業化の進行などにより益々経済全体に与える影響が高まっている。このような中、サービスに関して進められてきた学術的研究の成果や得られた知識を社会や組織が安心して活用するためには「サービスの標準化」が必要となる。この「サービス標準化」では、産官学によるオールジャパンでの推進体制を構築することが不可欠といえる。国際的なサービス標準化活動に目を向けると、特に欧州においてはサービス標準化を戦略的に進める動きが出てきており、早晩我が国のサービス業に対する影響がでてくることも予測される。このような状況に鑑み、JSQCでは、今年の3月末に「サービスのQ計画研究会」が設置され、当該研究会の最初のアウトプットとして、「科学化」「標準化」「実用化」のフェーズですすめる「サービス標準化スキーム」が提案された。
 サービスのQ計画研究会が母体となり、サービス業だけでなく、モノづくりのサービス業化(モノとサービスとの共創による顧客価値の実現)に関係する数多くの企業・関係府省庁と、サービスの標準化に係る課題・知見などを共有する目的で「第1回サービス標準化フォーラム」(副題:Best Practice に学ぶサービス品質)が平成28年10月14日、経団連会館カンファレンス 4階 「ダイアモンドルーム」で開催された。テーマは、「エクセレントサービスの再現可能性を高め多様性と共存する標準化」である。サービスの多様性・再現可能性を高めるための標準化とは、どのようなものなのか、どうやったら実現できるのかについて、サービスと品質のそれぞれを学会のカギ概念として有する2つの学会と、種々の標準化を推進している組織が、共同して開催するにいたった。開催当日、250席の会場は満席となった。総合司会をサービス学会の戸谷圭子氏がつとめ、【導入部】で、「開会挨拶:日本規格協会 理事長 揖斐 敏夫氏」「標準化の意義とサービスを取り巻く現状:日本品質管理学会会長 椿 広計氏」があった。【講演】は、「エクセレントサービスの実現 〜世界のリーディングエアラインを目指して〜:全日本空輸(株)町中尚子氏」「日立におけるサービス化の取り組みと課題:(株)日立製作所 長谷川雅彦氏」「接客行動分析による優秀販売員ノウハウ可視化の取組み:(株)三越伊勢丹ホールディングス 池田竜一氏」の3題があった。【パネルディスカッション】では、「サービソロジーはサービスをどう捉えているか:産業戦略研究所代表 村上輝康氏」「サービスの標準をどう考えるか、有効な標準とは何か?:サービス学会会長 山本昭二氏」「サービス標準化スキームの提案:日本品質管理学会副会長 水流聡子氏」から話題提供があった。討論は、事前に参加者に頂いたコメント・意見を基に「社内標準化」「オープンイノベーション」「国際市場での競争力」とサービスとの関わりの視点で展開された。企業の価値提案が顧客の事前期待に出会い両者のダイナミックなやり取りの中で利用価値が共創されること、その結果、顧客満足度評価が行われそれが次期のサービスへの事前期待を形成して新たなサイクルが生まれること等が紹介された。通常は閉じたチャネルの中で完結した標準化が行われるため、自動化や技術革新が進むスピードに対して標準化は追いつけないのが実情で、サービスの多様性を維持するためには標準化が足を引っ張りかねないという危惧とともに、標準化が日本はかなり遅れていることが指摘された。サービス標準化スキームの「科学化」ではPDCAのCAを担当する。サービス類型をまとめ、概念モデルを構築して評価方法論を考える。サービス標準化の難しさ・階層性・領域毎の戦略の中で各領域に最適な標準化の階層レベルを設定する必要性がある。優先領域を決め、サービス類型モデルの標準化を行い、サービス実現標準を開発していくことになる。【閉会挨拶】でサービス学会前会長新井民夫氏は、だれかがやってくれるではなく今日の参加者全員の参加を呼び掛けた。
 このフォーラムで提示されたサービス標準化活動は、参加者の賛同を得られたように思われる。国際的潮流にも乗り日本からの発信ができたらと考える。

 


私の提言
ソフトウェア品質データの蓄積と精緻な議論への期待

日本大学 理工学部 応用情報工学科 平山 雅之

 外には雪が舞っている。東京での11月積雪は観測史上初だという。気象庁の予報は見事に的中した。このところ気象庁の天気予報は随分と的中率が向上したようである。その一方で、二日ほど前に発生した東北地震の余震は、全く予測できていない。天気予報と地震予測、どちらも自然現象の予測と言う点においては同じカテゴリに属すのであろうが、その精度には随分と差がついている。
 天気予報の高い的中率は国内外で様々なデータをつぶさに日々集めることでかなり精度の高いモデルが世界規模でできたことに起因している。一方で、地震予測が難しいのは、そもそもの発生頻度の問題や地震の因果関係を構成する要素が多くデータが集めきれておらず精度の高いモデルができていない点が影響しているようである。
 さて、こうした自然事象に比べると、ソフトウェアの品質問題はどう理解したらよいのだろうか。例えば「あるソフトウェアにバグがいくつ含まれているか」は未だ正しく予測することはできない。少なくともソフトウェアにバグが発生する確率は、大地震が発生する確率よりも恐らく高く、どちらかと言うと日常の天気で雨が降るくらいの確率に近いかもしれない、にもかかわらずである。もちろん、バグの数だけではなく、「ソフトウェアのバグがなぜ混入するのか」という因果関係も説明できているようで実は十分に説明しきれない部分も未だ多いようである。
 冒頭の天気予報と地震予測の違いを見るまでもなく、正確な予測やその後の適切な対応を決めるのは、地道なデータの蓄積である。ソフトウェアの品質向上を考えた場合にも、開発にかかわる様々なデータを蓄積して、そこで発生している事象を説明するための精度の高いモデルを作り出すことが必要となる。一方で、こうした努力を一つの企業や地域内で進めても、データ数やそのバリエーションなどの面から精緻なモデルを作り出すのは難しい。昨今、情報関係のいくつかの学会では、企業人の学会離れや会員数の減少が問題となっている。こうした中、企業人との結びつきの強いJSQCなどが率先して、情報分野における品質データの蓄積を働きかけ、精緻な議論を積み重ねる姿勢を示すことが重要であると考えている。そうした活動は今まで以上に高品質なソフトウェアを生み出す大きな原動力となりうると期待している。


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