当部会は、2005年12月10日に第1回総会を開催し、活動を開始した。医療の質・安全の向上は社会的に重要な課題であり、これに対して医学系と工学系の実務家、研究者が、共同で取り組む意義が高いとの認識のもと、医療の質・安全を主要な研究領域とし、医学系、工学系が融合する場を提供してきた。
研究テーマとしては、開設当初から、医療の質マネジメントシステム(医療QMS)と患者状態適応型パス(PCAPS)を柱としてきた。前者は、医療における管理技術はいかにあるべきかの研究であり、後者は固有技術である臨床技術をいかに効果的に蓄積、活用するかに関する研究である。
この定常的に行う研究とは別に、2007年〜2008年には、医療の質マネジメントシステム研究会(略称医療QMS研究会)を開催し、ISO 9001の審査員、コンサルタント、医療者の方々に参加していただき、ISO9001の要求事項の医療向け解釈、医療機関での内部監査の進め方、医療機関における管理指標の研究を行った。この成果はJSQCの研究発表会で報告しているが、主査であった大和田孝氏が急逝されたこともあり、2年間で終了している。
その後、QMS活動やISO 9001の認証に取り組む病院は増えている。一方、団塊の世代が引退する時期を迎え、医療QMSを適切に審査あるいは監査できる人材が減少してきている。QMSという点では、工業と共通している点もあるものの、医療の特殊性を考慮することも必要であり、医療QMSを適切に評価するには、ある種の能力、知識が必要である。
現在は、QMSによって医療の質・安全を確保するための基盤が整備されてきており、今後、QMSの有効性をチェックし、PDCAサイクルを回していくことが、質・安全向上のために大切な活動になる。そのためには、内部監査、マネジメントレビュー、外部審査などを通じてQMSの問題点を効果的、効率的に抽出することが必要である。また、ISO 9001は、2015年に改正版が発行されており、その際に追加された要求事項をどのようにQMSに取り込むかも考察する必要がある。
そこで本部会では、医療のQMSの監査(審査)における有効な視点を探るべく、下記の研究目的、研究内容の新研究会を立ち上げることにした。
研究目的:
医療のQMS監査(審査)における有効な視点を明らかにする。その中で、特にISO 9001:2015の特徴を明確にし、それらのQMSへの活用方法および監査(審査)の視点を明らかにする。
研究内容:
1)品質マネジメントシステム規格国内委員会監修「ISO 9001:2015 要求事項の解説」、日本規格協会等を参考に、ISO 9001:2015の特徴を明らかにする。
2)医療従事者は、1)に関して自身の病院でどのような取り組みを行っているか(これから行おうとしているのか)、それらを内部監査でどのように確認しているか(これから確認しようとしているのか)を調査し、発表する。
3)審査員、監査員、コンサルタント等は、1)に関して医療機関でどのような取り組みがあるか、それをどのような視点で監査(審査)しているか(これからしようとしているか)について、整理し、発表する。
4)2008年度版と2015年度版で、検出課題についてどのような違いがあるかを分析する。
5)以上の議論を受けて、監査(審査)の視点を明確にする。
研究会主査には、医療者でありISO 9001の審査員でもある南大阪病院の香西瑞穂氏に、副査には大久野病院院長進藤晃氏、前橋赤十字病院副院長阿部毅彦氏にお願いした。第1回の研究会は、2017年1月14日(土)を予定している。部会に入会していただければどなたでも参加可能である。会員の方々の積極的な参加を期待したい。