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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2007 12月 No.281

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■トピックス:個人情報保護とQC的センス
■私の提言:「安心・安全社会」と「地べた学」
・PDF版はこちらをクリックしてください →news281.pdf

■ トピックス
  
個人情報保護とQC的センス

東京情報大学 教授 畠中 伸敏


 輸出業者などがEUC域内で個人データを移動する場合、OECDの8原則に従って適切に個人情報が保護されることがEU指令25条によって義務付けられた。日本ではこれを受けて個人情報保護法が2003年5月30日に制定され、2005年4月1日に全面施行された。
 個人情報保護法を巡っては、賛否両論があり、過剰反応、過小評価、萎縮効果と評されている。同法を制定した効果や有用性について検証し、個人情報保護のあり方を考える。

OECD
の8原則(個人情報保護の原則)
 OECDの8原則とは不正取得の禁止、利用目的の明確化、目的外利用の制限、安全措置、データの正確性、利用目的等の通知及び公表、訂正・利用停止権等の個人参加、適切な苦情処理を原則として謳ったもので、個人情報保護法の第4章に法制化された。
 また個人情報保護法第一条(目的)には「(健全な事業の発展のために)個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」ことを定めた。

個人情報の漏えいによる問題
 個人情報の漏えいが起こると、
ASPAMメールが増える
B訪問販売が増える
Cアポイントセールスが増える
である。
 ところでコンピュータの発達というと、メモリーやc.p.u.速度はすぐに思い浮かぶが、犯罪の背景にはマッチングの技術の発展が大きく起因し、瞬時に騙され易い人を探し出す。
 実際2004年1月17日に発生した三洋信販の事件では、架空請求詐欺の被害に遭う確率は、漏えいした個人情報の3000人に1人という非常に小さい確率であるが、116万件の流出情報の中からマッチングで「架空請求詐欺に騙されやすい人間」が容易に絞り込まれたものと考えられる。
 個人情報保護法の制定後も、2007年3月12日には大日本印刷のDM印刷863万名分の流出と続き、個人情報保護法の効果が揶揄された。

個人情報保護法とJIS
規格による効果
 しかし経済産業省に寄せられた「報告件数の推移」では、個人情報の漏えいが平成17年度は1,169件であったものが、平成18年度は785件と、33%減少している。個人情報保護法の全面施行後、2年目には効果が現われた。
 一方、個人情報の取扱いを要求事項として定めたJIS Q 15001の取得の効果は、(財)日本情報処理開発協会プライバシーマーク事務局の『平成17年度の個人情報の取扱いにおける事故報告に見る傾向と注意点』によれば、P-mark取得企業の個人情報の事件・事故の原因の上位は誤配送等が71.5%、置き引きが9.2%で、従業員による持ち出しや、紛失は激減している。
 JIS Q 15001は2006年に改訂され、マネジメントシステムの考えが導入された。また個人情報の取扱いで発生する「個人情報への不正アクセス、個人情報の紛失、破壊、改ざん、漏えい」のリスクが発生しないように、個人情報のライフサイクルに沿ってリスク分析し、残存リスクを推定することが要求事項となった。認証取得すると、その証として「P-mark」が授与される。

know howからknow why
 個人情報が漏えいすると、すぐに業者がやって来て、セキュリティを高めるためにはお金が必要ですよといい、狭い部屋に監視カメラが増え、総ガラス張りの部屋をスイッチ一つで見えないようにする装置など高い商品を購入させられる。その割には是正処置票には原因不明というものが多い。
 個人情報が漏えいした現場に立ってみると、どことなく、従業員に落ち着きがなく、管理者が離席し、コンピュータルームが倉庫のようになっている。これは再発しますねというと、キョトンした顔で「どうしたらいいのですか」と尋ねてくる。恐らくQC屋であるならば、徹底して原因を追究し、原因が分かったところで、処置する。情報セキュリティや個人情報の保護に関してもQC的センスが必要である。


■私の提言
 
「安心・安全社会」と「地べた学」

 

製品評価技術基盤機構(NITE) 矢野 友三郎

 工業製品と伝統工芸品を比べると、工業製品は出来上がったときが最高の品質性能であるのに対して、伝統工芸品は使えば使うほど本来の美しさが出て綺麗になるという違いがある。例えば、漆の器や重箱は、年代とともに光沢を増し愛好家を喜ばせる。しかし、工業製品は、年代とともに製品の劣化が始まり、最悪の場合には製品事故を引き起こす。
 2年ほど前、死亡事故を起こしマスコミで大きく取り上げられた石油ファンヒーター、製造後20年近い製品で、メーカーの想定耐用年数を超えていた。事故の原因は、本体ではなく取り付け部品の排気ホースの劣化、亀裂が原因であった。特に高分子材料、いわゆるプラスチック製品の長期使用の経年劣化は要注意である。
 最近の製品は使用する材料も多種多様で、使用や保管状況によっては、思わぬところで事故が起きる。実生活でも、古くなった輪ゴムが切れたり、古くなった庭のホースが硬化しひび割れ等を目にするように、製品の経年劣化リスクは避けられない。食品や飲料水には消費期限があり、期限を過ぎたものは廃棄するが、工業製品についても、時々、古くなったものは製品の経年劣化を管理・点検する習慣をもつ必要がある。
 日本の社会は警察の交番システムに代表されるように、安全・安心を国に期待する傾向が強いが、いつまでも安全・安心を国だけに頼るには限界がある。今年4月、欧州委員会は、危険な消費者製品として撤収した約半数が中国製だったことを明らかにし、安全は国内だけの問題でなくなり、自分のことは自分で守るという自覚も問われる。
 今後は、問題を受けての対症療法的な対応や企業への批判だけでは、安全・安心の質を高めていくことは出来ない。踊る大捜査線の名台詞、「事件は会議室で起こっているんじゃない!現場で起きているんだ!!」の如く、関係者が現場でお互いに切磋琢磨しながら安全・安心の最適解を見つけていくことが大事である。学会も論文だけ書くのではなく、現場に出かけ、「安全」という「土台」、つまり「地べた」の重要性を訴え、より安全な品質管理、商品開発に向けた企業努力を促すことも考えて良いのではないか。  


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