日本は高度成長期において,工業製品の“当り前品質”の向上にはじまり,製品の付加価値を高める“魅力的品質”の向上に取り組み,大きな成功を収めてきた.しかしその後,1990年代のバブルの崩壊,加えて新興国の台頭により,経済的な長期低迷を余儀なくされる事態となっている.さらに昨年度は,東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故により,被災地復興と放射能に対する長期的対応の必要性に直面するとともに,遠くない将来に予期される震災等リスクへの対策が急務となっている.これらの課題には,残念ながら現存の社会システムでは十分に対応できず,失敗からの反省,学び,そして痛みを,単なる「心構え」以上のもの,「より良い社会システム」に結実させる必要がある.
工学的に発展してきたシステムのデザイン手法を社会システムの設計に応用することが,社会システム創出の一助になり得るのではないかという可能性に鑑み,本シンポジウムでは,それを実現するために必要な技術要素および事例について概観し,新たな社会システムについて考える機会としたい.